はじめに ステージでアコースティック・ギター（以下アコギ）を使用する時、 今や避けて通れないのがピックアップシステムである。 これは他の楽器との干渉、近年会場が大きくなったこと、またPAシステムの 進歩による「より大音量での増幅」が必要不可欠になってきたからである。 しかしアコギをPlayする人間にとって、このピックアップの音は いわゆる”生音”とはかなりギャップがあることは否めない。 なおかつ「付けてみないとわからない」という非常にやっかいな代物である。 以下に書くのは、俺自身の主観で「気持ちがいい音」「好きな音」を追求した 現在進行形のレポートである。この「いい音」に対する評価はあくまで 個人差があるので、ここに書いたことが全てではない事をお断りしておく。 「自分の音」は自分でしか見つけられないのだから。
	1)Pick-Upの歴史・種類と遍歴 昔はアコギをステージで使う時、ピックアップなんて使わなかった。 60年代後期までは「マイクで拾う」これで充分だった。そしてこれが一番 ナチュラルな音なのである。そもそもアコギとは弦振動をボディが増幅し、 「空気が震える音を聞かせる楽器」なのだ。Martin Dシリーズが あれだけ大きいボデイを持つのは、如何に生音を響かせるか？という 目的なのだから。しかし、音楽が生楽器のみのアンサンブルから 電気で増幅する楽器とのアンサンブルへ変化するに従い、この状況は 激変する。いわゆるR&Rにアコギを加えるフォークロックの台頭と 時期を同じくして、アコギにより大きな音量を求めるニーズが発生したのだ。 最初は単純にエレキギターのピックアップをアコギに取り付ける、という作業 からスタートした。いわゆるマグネットタイプ。GibsonJ160E（J.レノン使用で有名） などがその代表例。このタイプにはSunrise、Fishmanレアアース、L.R.BaggsM1 などがある。かなり研究が進んでだいぶナチュラルになってきた。 この利点はボディ加工が最小限である事。サウンドホールからケーブルを出せば、 無加工で取り付けられる。実際俺も最初のD41にはレアアースを付けていた。 また先日まで織田氏のMartin M38にはSunriseが取り付けてあった。 L.R.BaggsM1はボディ振動も拾う設計になっているので、かなり良い印象 だった。（研さんの１２弦に搭載。）ただし、やはり”エレキのフロント” という根本の感覚は拭えない。 （写真左SUNRISE/写真右上L.R.BaggsM1写真左下.FISHMAN.レアアース)
	70年代に入るとアコギの音がさらに変化した。 いわゆるウェストコースト・サウンド（EAGLES,J.Browne,POCO,Doobies,J.T, Linda,J.D.Souther...) と呼ばれたロックミュージシャン、シンガーソングライター 達がアコギを、よりメインにサウンドに取り入れ始めたのだ。 この頃開発されたのがピエゾ（圧電式振動体）を使ったシステム、バーカスベリー などである。ガムのような接着テープでブリッジに密着させて使用した。 これは画期的だったが今聞くと酷い音だ。（笑）まだ家にある。 さらにOVATIONの登場は衝撃的だった。これはブリッジの下にピエゾを取り付け 弦振動を拾い内蔵ボリュームとトーンでコントロール。ファイバーのボディ鳴りと 合わせて70年代後半から８０年代中期までシーンを席巻した。 そして日本製タカミネの登場である。わざとボディの鳴りを殺して、 ピックアップの音をメインに考えるこの楽器も80年代後半から90年代中期まで 一世を風靡した。ハウリングに強く大音量でもまとまる、いわゆる エレアコ・サウンドの確立である。 しかし、アコギ弾きにとってこのエレアコ・サウンドは似て非なる物。 ちゃんと生音が響かない楽器には一抹の寂しさがついて回る。 そこで近年、MartinやGibson,Guild,Yairiなど生音が鳴る楽器の音を ピックアップで如何に再現するか？と言う研究が進んできたのである。 まずアンダー・トランスデューサー。サドル下ピエゾの総称で ハイランダー、FISHMAN matrix、L.R.Baggs、B-BANDなどがある。 最初に買ったD45に俺が取り付けたのはハイランダーIP-1だった。 （写真左上L.R.Baggs/RT2左下B-BAND写真右上FISHMAN右下ハイランダー）
	ハイランダーIP-1はピエゾ本体が非常に柔らかい素材で出来ている。 なおかつサドル下の溝をU字に掘らなければならない。こうすることで ボディの振動を拾う設計になっている。しかし、これをやると元には戻らない のでそのまま取付けた。 IP-1の欠点はもう一つ、素材が柔らかすぎて弦高が下がってくる から、安定するまで何度もバランス調整しなければならないのだ。 実はアコギ弾きにとって、このピエゾの音はエレアコと一緒なのである。 直接の弦振動を拾うことで明確な音は出るが、空気感には乏しい。 （だからこの音を嫌う人はかなり多い。織田氏も、俺も実は...笑） なおかつD45は倍音命の楽器。コロリ〜ンと言う鈴鳴りがIP-1ではほとんど 食われてしまうのだ。これはMartin弾きにとって耐え難い屈辱であった。 その頃発売になったL.R.Baggsのi-Beamはボディの生鳴りをより表現する、 との売り文句。同じピエゾでもボディ振動を拾うためエアー感が損なわれないと。 ならば！と躊躇うことなくIP-1を外してi-Beam Activeを導入。 単体ではかなり好みの音だった。これならば！と勇んで臨んだ最初のライブ。 しかし、PAからはさんざんな駄目が出た。直接音を拾っていないから、 他の楽器が入ったとたん、ボディに共振して実体のない音になってしまうのだ。 特にBassが入った瞬間、全ては終わる。（笑）短音弾きなど全く表現出来ない。 なおかつ本体の質量があるため意外と生音に影響が出る。 （写真左L.R.Baggs/iBeam）
	2)現在のPick-Upとその改造 さてどうするか？やはりアンダー・トランスデューサーは必要悪。 これがないと音は立たない。しかしエアー感も絶対必要...こうなるとピエゾに 他の音を混ぜるしかない。手っ取り早いのはマイクの音を混ぜるタイプ。 ステレオ・ケーブルでL=Piezo/R=Micを出力し、外部でブレンドする考え方。 当時選択肢は2つしかなかった。L.R.Baggs/double barrelかハイランダーIP-2か。 （B-BANDのミックスタイプはまだ発売されていなかった。） こうなるともう決まりである。ハイランダーの生音殺しにはもはや堪えられる 訳もなく（笑）d.bを実際取り付けてみると、ピエゾとしては非常に素直な音色。 心配していた生音の”食われ”も極薄振動体のおかげでほとんど気にならず。 これならと思ったが、しかし！double barrelには致命的な欠陥があったのだ。 　それはMicの取り付け方法。ボディに両面マジックテープで直接貼り付ける。 しかもマイク自体は極端な安物でスポンジに覆われている。 これだとMicレベルを上げていった時、コーッと言う音しか拾わないのだ。 結局ピエゾメインでほんの少しエアー感を加える程度しか出来ない。 ハウリングにも極端に弱い。 これじゃ全く使い物にならないじゃないか！（怒） 　ちょうどこの頃、織田哲郎氏の「行きどこ２」が始まった。 彼のD18にはIP-2がM-38にはSUNRISEがマウント。 これで他機種と比較出来たのがとても大きかった。 そうか、IP-2はマイクがフレキシブル。 ならばdouble barrelのMicをフレキに改造したらいい結果が出るかも？ と言うアイデアが浮かんだのである。 こういう時に俺にはジョージさんという強い味方がいる。v(^_^) 相談して何日かトライ＆エラーを繰り返し、ケーブルを延長し 針金でフレキにする改造を施した。これだけでかなり変わった。 もちろんMIC本体をcountrymanの高い物に換える改造もトライしたが、 これはインピーダンスと電圧不足で歪んでしまいNG。 結局この方法で約２年、音作りを進めてきた。 これが改造ver.1である。 　今年の３月、恒例お誕生会にて織田氏は俺のD41しか使わなかった。 「もうこれしかない。M38も同じにしてくれ。」というご注文。それなら...と かねてから思っていた改造ver.2に取りかかったのだ。 針金を細くして軽量化、収縮チューブでケーブル＆針金を押さえて自由度を 持たせ、MICは２重にチューブでしっかり固定し防振性を上げる。 見た目向上がメインの目的だったが、この改造で音質もかなりver.upした。 より自然でクリアな音色になり、とても安物Micとは思えぬクオリティに。 ただし軽量化したことで、クリップに挟む防振材がかなり重要なポイントになった。 ボディ振動との干渉を防ぐためである。今現在、硬い材質の方が結果が良い。 この部分はもう少しトライ＆エラーの必要があるだろう。 Micはピエゾと混ぜることを前提に、今のところこの位置がベスト。 このシステムが使いやすいのは、マイク音量でAcoustic ver.でも Drum入りのBAND ver.でも対応出来る点。 つまり前者はMicバランスを大きめに、後者は逆にと。 なおピエゾのバランス取りでは黒沢楽器本店さんに大変お世話になっている。 　これが2005年6月現在の俺のpick-upシステムである。 注）残念ながらdouble barrelは現在製造中止。 ちょっと値は張るが、Dual Sourceで全く問題なし。 この事項をメーカーにF.Bしたが相手にされず。（苦笑） （写真左上double barrel左下改造MIC写真右上.改造ver.1右下ver.2) ここからさらに現在は進化し、純正マイク使用はver.4まで。 そして現在は汎用マイク仕様のグレードアップをテスト中。 (2012年３月現在。)
	3)プリアンプの重要性 　意外と見落としがちなのが”音の出口”プリアンプである。 Pick Upはギターの音を増幅する入り口だとしたら、 PAに送る最終出口がプリアンプなのであるから その重要性はもっと認識されなければならない。 もちろんPAシステムを持ち回り、エンジニアがついて回るツアーならば、 ある程度クオリティは保証されているから、それ程拘らなくても済むのだが 「行きどこ２」のように各地ライブハウスのオペレーターに委ねる場合、 こちら側でコントロール出来る範疇を広げておく必然性に迫られる。 なおかつ、プリアンプのクオリティで音質を上げる事も可能なのだ。 プロの現場でもよく見かけるが、アコギからVolペダルを通して PA/D.Iに送っている例。仮にもしあなたがそうしているなら、 試しにPick Upから直接D.Iに繋いでごらんなさい。 どのくらい音質が劣化しているのか、愕然とするはずだから。 かくいう俺も以前は（PAの要請もあり）そのパターンだったが。 もうひとつ、D.Iにも機種によるクオリティ差があり場所によって 毎日、音色に差が発生するという事態にも悩まされた。 そこで、様々なプリアンプを試しトライ＆エラーを繰り返した。 しかし、納得できる物には巡り会えず最終的には作ってしまえ！と 織田哲郎氏と一緒に作ったのが[Dual System OM-1] 2006年に試作機を作り、その後2007年プロトタイプを３台製作。 現場での実戦テストを繰り返した後、2009年に少数ロットのみ生産した。 現在、織田哲郎氏がライブ使用しているアコースティック・ギターには (Martin D-45,Gibson J-45等)すべてこのシステムが組み込まれている。 織田哲郎ライブでのアコギの音色は各方面より絶賛され 「どうやって出しているのか？」等多くの問い合わせを頂いている。 残り僅かなので興味のある方は連絡を。 まだまだアコギのピックアップ・システムはこれだ！と言える決定版はない。 最初にも書いたが、音に対する評価には個人差がある。 試してみなければわからない、やっかいな代物。だから、これだけの機種を ひとつの楽器にトライ＆エラーした例も珍しいのではないだろうか。 そしてまだ、俺のシステムは現在進行形である。 もっと向上させようとする意志があるから、もっともっと良くなるはずだ。 このレポートがあなたのアコギ・ライフに少しでも参考になれば幸いである。 　　　　　　　　2005/june & 2012/Mar追記 Masa Meikyo