Danの音楽との出会い 　1976年千葉。18才、西本や江澤とバンド活動まっただ中だった頃。 ある時、西本が「この人とってもいいよ。」と持ってきたレコードが 「Souvenirs〜アメリカの思い出」と「Captured Angel〜囚われの天使」。 最初聞いたときの印象は「線の細い人だなぁ。」ってことと、 よくあるウェストコーストのシンガーソングライター程度でしかなかった。 　時はまさに西海岸系アメリカン・ロックの全盛時。この年後半にEAGLESが 名作「HOTEL CALIFORNIA」を、Jackson Browneは「PRETENDER」を発表。 そして俺達も夢中になって追いかけていた。 （何を追いかけたのか、未だにわからないが・・・） 　翌1977年、バンドは解散。 一人になり、大学に戻った俺は相変わらず「西海岸系」音楽を追いかけていた。 ぽっかりと心に空いた空洞を埋めるには、やっぱり音楽しかなかった。 そんな時、レコード屋の棚にDanのNew Album「Nether Lands」を見つけ ジャケットに惹かれて衝動買いした。秋も深まりゆく頃だった。
人生を変えた一枚「Nether Lands」 あとから聞き込んだ２枚目「SOUVNIRS」	Danの音楽の虜に 　彼の通算４枚目であるこの「Nether Lands」のジャケットは、 逆光に浮かぶ、もの憂げな深い陰影のDanの横顔が写っている。 青緑ベースのモノクロームなその横顔は、何かを訴えかけているようでもあり。 レコード盤に針を落としたときのあの感動は今も覚えている。 まるで、美術館で絵画を見るように映像が浮かんできたんだ。 高く雪深い山間にいるような「Nether Lands」もの悲しい短編映画を見るような 「Dancing Shoes」その瞬間を封じ込めたような「Scarecrow's Dream」や 「Sketches」等々、聞き込めば聞き込むほどに心の琴線に響いたのだ。 それからは毎日毎日、このアルバムを聴き続けた。 なんだろう、この感覚は？ そうだ、中学生の頃初めてアンドリュー・ワイエス展に行き、とある絵の前で 釘付けになったあの感覚と同じだ。その絵はカンバスの向こうからまるで 風が吹いてくるような錯覚に襲われて、その場を動けなくなった。 Danの曲は、スピーカーの向こうから、いやレコード盤の針の上から 彼の描いた風景や空気や感情が、ふわっと浮かんでくるような感覚だったのだ。 今のようにインターネットもなければ、プロモーションビデオもない。 月に一度、音専紙で伝わってくる、おぼろげな情報だけが頼りのあの時代だから よけいにイマジネーションが広がったのかも知れないが。 　そしてそれから自然に、Danの以前の作品を買い漁った。 前に聞いた「Souvenirs〜アメリカの思い出」「Captured Angel〜囚われの天使」 はもちろんのこと、ファーストアルバム「Home Free」まで遡って聞きまくった。 聞き込むほどに、それぞれの作品から彼が音楽に込めたものを感じるようになった。 １枚目の折れそうなほど繊細でか細い声も、２枚目のJoe Walshプロデュースの 初期イーグルスに近い脳天気な表現も、多重録音で仕上げた３枚目の孤独な世界観も 自分の生活とは切り離せないくらい特別なアーティストへと成長していったのだ。 あとから解説を読んで知ったことだが、Danはイリノイ大学で絵画を専攻していた。 彼のファーストTopは自身の手による自画像だし３枚目「天使の絵」も彼の作品。 それぞれのアルバムには必ずと言っていいほど、彼の絵が使われていた。 だからDanの作品には絵が浮かぶのか、と改めて納得した。 そう、Danの曲から浮かんでくる映像はその後も絶えることはなかった。 リアルタイムで彼を追いかけた俺にとって、彼の作品は「俺の音楽」の成長過程で 「重要な教科書」になった。俺自身が小中学校で油絵を習っていたことも、Danの 作品にここまで共感できる大きな要素だったのかもしれない。	彼のデビュー作。一人のCSNYと評された。 ドラム以外一人で仕上げた３枚目「Captured Angel」
日本でも認知されるようになった 「Twin Sons of Different Mother」 最高傑作「The Innocent Age」 ルーツであるCountry&BlueGlassに回帰 「High Country Snows」	Danの音楽と共に 　これ以降、Danの音楽は俺にとって欠かせない存在になった。 1978年「Twin Sons of Different Mother」は折からのAOR・ムーブメントに乗じて 日本でも話題になる。川端康成「雪国」のTV版サントラに使われたり、FM番組の テーマに使われたり。翌年1979年には「PHOENIX」を発表。このアルバムを聴くと その頃始めたスキーで行った雪山の風景が浮かぶ。「Longer」を初めて聞いたのは 成城のバンド仲間Aの下宿だったなぁとか、当時恋した彼女の顔が浮かんだりとか、 俺自身や仲間の瞬間ごとに、彼の音楽は刻まれていったんだ。ちょうど当時、 爆発的な人気だったウォークマンのヘッドフォンから絶えることなく。 　そして1981年秋。 Danの最高傑作と言われる「The Innocent Age」が発表された。 ちょうどツアーを回る仕事を始めた俺にとって、このアルバムは心の支えだった。 あれほど追い続けたウェストコースト・ロックはEAGLESの解散で終焉を迎えつつ あった。「そんなものは何処にもなかったのさ。」とあざ笑うかのように。パンクや ディスコ・ミュージックばかり流れる時代にあって、Danの音楽とメッセージは、 俺にとって唯一の救いだったのだ。 このアルバムを聴くと、1981年から82年当時の街から街へ渡り歩く生活、 一緒に働いた仲間達、夜汽車や夜行移動トラックの助手席から見た風景。 そんなこんなが全て、走馬燈のように浮かんで消える。 「The Innocent Age」は俺の生活の一部分だったんだ。 　それはずっと継続した。 Best Albumを挟んで発表された1983年「Windows and Walls」も、彼のルーツに回帰 した「High Country Snows」も、全て当時の旅回りの情景と共にある。 　俺にとって、Danの存在が単なるアーティスト以上になったアルバムが1990年発表 された「WILD PLACES」、それに続いてそのライブの模様を収めたアルバム＆映像 「Greetings From The West」だ。音楽はかつての輝きを失いつつあり、自分が「何故 この仕事をしているのか？何故ここにいるのか？」疑問に思うようになった時代。 Danのこのアルバムは、かつて俺達が愛した「音楽の輝き」を失わずにいた。 それどころか、９０年代という時代にあってなお、世界に対して彼自身のメッセージ を、絵画的な映像を、俺に啓示してくれたのだ。一年後に届けられたライブ映像＆ 音源はDanの音楽に対する真摯な姿勢を、あますことなく表現した作品だった。 音楽を嫌いになりかけた時、音楽に疲れた時、きまってこのアルバムを聴いた。 車の中で、移動中のヘッドフォンステレオで、旅先のホテルで、家で。 このアルバムがなかったら、1999年7月西本の「もう歌わないの？」という一言 が心に響くことはなかったろう。いやひょっとしたら、音楽に関わる仕事を 俺は辞めていたかもしれない。	名曲Longerが収められた「PHOENIX」 MTV時代に突入し初めてPVが録られた 「Windows and Walls」 ９０年代にも変わらぬ奇跡の音 「THE WILD PLACE」 彼の残した唯一の映像作品＆LIVE 「Greetings From The West」
	Dan Fogelbergに捧ぐ 親愛なるDanへ あなたの音楽はいつでも、僕の人生と共にありました。 あなたの音楽に巡り会わなければ、僕は今 「曲を作り歌う」なんてことをしていなかったでしょう。 Dan、僕はあなたの音楽をバイブルに曲を作ってきました。 「桜色の影」は「Longer」や「Believe in Me」を 「Vintage Hands」は「Leader Of The Band」を 「君好き」は「Same Old Lang Syne」を・・・ THE SAMEというバンド名は４人の頭文字からつけましたが この曲のことを思い浮かべたからです。 もちろん全てメロディラインも歌詞も僕自身のものです。 ただ、いつかあんな曲が書けたら、とインスパイアされなければ これらの曲は、生まれなかったでしょう。 僕の作るメロディも歌詞も、必ずどこかにあなたの影響が現れます。 あなたの言葉も、メロディも、ギターも、ピアノも、全てが 血となり肉となってこの身体を巡っているからです。 同じ時代に生まれ、あなたの音楽に巡り会えて それが自分の人生とリンクして、あなたの音楽が流れている幸せを 僕は今噛みしめています。 いつの日にか、僕の命も尽きるときが来ます。 その日まで僕は、あなたのくれた音楽を自分なりに 表現し続けようと思います。 あなたの音楽はこれからもずっと 僕の人生と共にあるのだから。 ありがとう、Dan Fogeberg 2007/12/16 am.6:00/　天に召されたあなたへ 2007/12/29---------Masa Meikyo------------	遺作となった2003年 「FULL CIRCLE」 1997年4枚組Box Set「PORTRAIT」